2016年3月6日フジテレビ「Mr.サンデー」首都直下地震予測SPの考察

2019/04/29

お待たせしました、1日遅れの「フジテレビによる地震予測特集の考察」です。
以下、勢いに任せて執筆したので、「である調」でお許しを。

放送は、すぐさま地震予測SPへ。
地震予測をしているM氏の場面。

通信業者のd社が、M氏のために地震予測専用のオリジナル電子基準点を全国に配備するとのこと。
これは、d社ユーザから徴収しているケータイ料金から拠出されるわけである。
神奈川県小田原市のオリジナル電子基準点で観測されたデータの立ち上がりが、「埼玉県北部地震」と「小笠原諸島西方沖地震」の前兆だという。

まず、観測されたデータはまったくノイズを除去していない。
したがって、ナレーターの「ノイズでは片付けられないものがあると・・・」には、なんの科学的裏付けはない。

地震学者11人へのアンケートで「回答拒否(=学会で発表してないので論理的な裏付けが分からず判断できない)」「統計学的な予測と同程度(=過去の地震を統計に当てはめれば、誰でもM氏と同じ予測ができる)」という内容は、科学者であれば至極まともな回答である。

M氏の「東大名誉教授だから・・・」の発言は、言わずもがな肩書きが何であれ間違っているものは間違っている。
これに気付かず「東大名誉教授」という肩書きに踊らされたd社部長は単なる学歴偏重主義者なのではなかろうかと思えてしまう。

さて、M氏がいう「震度5以上の地震が発生する可能性が高い地域」が表示された。
太平洋側のほとんどの地域が指定されている。
これを検証してみよう。
気象庁震度データベースから、過去の地震の震度を検索できる上、震央分布を勝手に作図してくれる。
過去3年間の震度5弱以上の地震を抽出すると、ほらこのとおり。
ほとんどが太平洋沿岸で起きている。

20130306から20160305の震度5弱以上の震央分布
20130306から20160305の震度5弱以上の震央分布

つまり、M氏の地震予測などやらなくても、誰でも簡単に出力できるこの図を見るだけで、万人が「太平洋沿岸で震度5弱以上が発生するぞ」と言えてしまうのである。

で、地震発生の可能性が極めて高い地方として「北信越地方・岐阜県」が指定された。
ここは、歪集中帯として、元々地震が多いところであることが知られている。
元々地震が多い場所を指して「地震が起こる可能性がかなり高いよ」ということは難しいことだろうか?
いや、誰でもできてしまうであろう。

ジャーナリストのA氏が「3.11の原発事故の時に、短期的利益のために科学者が事実を隠したりねじ曲げたりしたことが惨事につながった」と、あたかも地震業界も同様であるかのような印象を与える発言をした。
これはあまりに不用意な発言である。

そもそも原発業界と地球科学業界はその性質が大いに異なる。
地球科学業界は、まったく利益につながらない。基礎的な理学である。利権もない。
研究結果を隠している学者は一人もいない。みな学会や研究会で年に何度も自分の研究経過・結果を発表し、国内外の科学誌に投稿している。
純粋に科学的好奇心に満ちた研究者の集まりである業界と、利権だらけの業界を一緒くたに議論するとは愚の骨頂。
公共の電波を使って発言するなら、もう少し業界調査をしてから述べて欲しい。
あまりに短絡的かつ取材不足な発言をした彼は、ジャーナリストを名乗る自分を恥ずべきだ。

ところで、MCのMYN氏は、これまでのM氏の地震予測の報道のときより、トーンが下がったように思える。
以前は、M氏の成果を過大に評価し(というか、評価できる知識が皆無だったのだろう)、その反面、いわゆる地震学者を批判していた。
しかし今回の放送では、「あくまで予測です」「地震は全国どこでも起きる可能性があります」などと、M氏の地震予測を諸手を挙げて絶賛するというものではなかった。
MYN氏は、M氏の報道のMCをやるにあたって、方々からいろんな声を拾い集めたのではなかろうか。
その結果、視聴者に誤解を与えるような報道をなるべく差し控えるべきだとの思いが心のどこか生まれたのではなかろうか・・・と期待したい。