未確認津波遡上情報を記事にする報道各社

2019/04/29

2012年3月16日夜から17日にかけて、以下の記事を目にした人は多いだろう。
1.NHKニュース
宮城県の島に43m津波の痕跡
2.河北新報社
女川沖の島で津波43メートル 震災で最大の遡上高か
3.読売新聞
震災津波、最大43mあった可能性…女川の島に
4.朝日新聞
震災津波、高さ43メートルまで到達か 女川沖の島
5.産経新聞
宮城沖の島で遡上高43メートルか 震災津波で最大の可能性
これらの記事は、第903回地震研究所談話会において「4.歴史地震・津波の現在研究進行中の諸問題」のなかで話された内容だ。
いや、正しくは、話された内容をやや誇張気味に書いた内容だ。
このブログをお読みのみなさんには、まず上から順に記事タイトルだけから受け取れるイメージを思い浮かべて欲しい。
この並び順は、「発表された内容を短縮しすぎて読者に誤解を与える可能性の高い順」に、筆者が並べてみたものだ。
これらの記事には3つの問題が内在する。
問題の前にまず、これは定年退職する都司先生の最終講義としての発表だった。
最終講義はこれまでの集大成やもっとも最近わかったこと等を述べることが多いが、氏はこれから研究したい、または研究途上である20弱にも及ぶ研究アイデアを羅列した。
これらのアイデアは、保守的な地震研では異端児と思えるような奇抜なモノも多かった。
しかし、純粋な理論から観測、古文書の解読までと、現在、氏しか思いつかないような、これでもかというほどのアイデアマンっぷりを見せつけてくれた。
そして
「若いみなさん、このアイデアをどんどん盗んでください」
と、研究の発展に甚だ前向きの、ある意味後進へのエールを贈ってくれたのであった。
さて話を元に戻す。
3つの内在する問題について。
発表全体の冒頭で都司先生は、
「研究中の内容であり、学会等で発表するには至っていない内容である」
と前置きがあった。
記事となった発表では、氏は
「津波が遡上したであろう高さは、島から遠く離れたところから、高さがわかるものを指標として、写真上の比率で計算した」
と言っていた。
また、
「接岸できる場所がなく上陸できていないので、正確には上陸してみないとわからない」
とも明言した。
これらから、3つの問題とは以下の通りである。
(1)研究中であり結論は出ていない。つまり文字で公表するようなものではないのに紙面はこぞって取り上げた。
(2)津波の高さは正しくは遡上高であり、波高ではないのにそれを明記しないタイトルの記事が多い。
(3)遡上高らしき場所を観察できていないから断言できないはずなのに、断定形に近い表現をしているタイトルの記事がある。
1.のNHKニュースはもってのほかである。
上記の3つの問題のすべてに絡んでいる。
2~4.は、問題の(1)と、(2)または(3)に引っかかる。
5.の産経新聞が一番良心的であるが、そもそも問題(1)はどうなんだ、と思う。
各社と明らかに一線を画しているのは、毎日新聞だ。
筆者が探した限り、どうやら記事にしていないようだ。
もしかしたら談話会に出なかっただけかも知れないが、出たうえでの判断ならこれは好感が持てる。
談話会後の取り巻きが研究者らしからぬ、しかも若い人が4,5人だったあたり、これらの記事を書いた駆け出しの記者だったのかも知れない。
さて、問題点を論ってみたが、都司先生から記事にすることの了承を得ていた場合はどうだろう。
というより、おそらくその可能性の方が高い。
なぜなら、すべての記事に都司先生から提供された写真が掲載されているからだ。
さらに、記事を全部読めば、(2)(3)の問題がクリアされるよう、大部分が注意を払って書いているのがわかるからだ。
さて、そうなると問題(1)は問題ではなくなる。
しかし、やはり(2)(3)は依然問題として残る。
衝撃的なタイトルは、人々に伝わりやすい。
衝撃的なタイトルほど、タイトルしか伝わらない。
だからこそ、報道各社は衝撃的なタイトルを付ける訓練を受けるわけだが、明らかに誤解を与えるような書き方はやはり控えて欲しい。
今回、短い文章で誤解を与えずすべてを伝えているタイトルは、産経新聞である。
今後も産経新聞には、地球科学に注視してもらい(記事の分類に「地球科学」があるのは産経新聞だけである)、正しくわかりやすいタイトルで報道して欲しい。
もちろん、他の新聞社にも、正しく伝えるならどんどん地球科学の報道はして欲しい。
とくに311がらみは必要だ。
人間は忘れる生き物である。
だが、忘れてはならぬものを忘れさせない使命を、報道機関は負っている気がするから。